Monday, January 21, 2008

20日ほど遅れた初夢

新しい年が始まり、初めての夢ー初夢ーは、ひょんな時に起こった。身を切り裂くような風の日にソーホーで食べたおいしいハンバーグの後、この心地よいベッドの上でうとうとしていたら突然やってきた。読みかけていたスコット・フィッツジェラルドの短編も中途半端にそれは突然やってきた。

僕は日本のどこかにいた。誰だか見覚えのない顔と一緒に車に乗っていたと思う。喉がひどく乾き、近くに見えた2軒のセブンイレブンに車を停める。2軒あった。あたかも違う店のような店構えで2軒並んでいたのだ。左側のそれは、セブンイレブンの見慣れた看板を掲げてはいるけれど、その中身はがらんとしていて飲み物はおろか、スナック菓子や雑誌などのコンビニエンスストアに置いてありそうな商品は何一つ持ち合わせていなかったように思う。映画で例えるなら「バッファロー66」のあの冷たそうなあまりに閑散としたグレーのコンクリート。古びたガラスのドアを開けて見える左奥には何故かスーツの仕立て屋のようなセットだけが置いてあり、前にちょこんと座っていたレジにはホコリがかぶっているようにも見えて、店番をしているはずの人間はそこにはいなかった。仕方なく、隣に並ぶネオンの明るい方のセブンイレブンに入ってみたが、それはどこか今まで知っていたセブンイレブンではなく、記憶が正しければ店奥に並んでいるはずの飲料コーナーはそこでは塗り立ての白いコンクリートで覆われていた。レジから見て縦並びであるはずの棚は5列くらいの横並びになっている。よく分からないまま店内をどことなく歩いてみたけど、どうしても飲み物が見つからない。飲み物かな、と思う商品はあったけれど、見慣れたはずのあのいつのまにか捨てにくいゴミへと姿を変えるペットボトルが見当たらない。



これはまぎれもなく夢。何一つ論理的ではない夢。記憶と矛盾が二重した何ら変哲のない夢。
「Siamese Dream」ー僕はスマッシング・パンプキンズのその退廃しながらも高貴なそのイメージが大好きだ。外は暗い。

いつしか飲み物を選び終わっていて、レジに並ぶ、それにしてもすごい人の数だった。
長いレジに並びいざ自分の番が来るとなると、さてお金の払い方が分からない。ポケットに手を伸ばし財布を手に取る。勘定の準備は十分すぎるほど出来ている。しかし肝心のお金の払い方が分からない。店員はのっぺらぼうみたいに突っ立てやがる。後ろに待つ列のどこからともなく舌打ちが聞こえる。かぶっていたニット帽の額らへんに汗がにじむ。すごく腹が立っていた、お金はある。払う準備も出来ている、お金もここに確かにある。それなのに払い方が分からない。

そんなところで目が覚めた。マーティン・ルーサー・キング Jr.の日で今週は3連休。連日の仕事のせいか体がひどく疲れているみたい。時計の針は12時を指していた。カーテンを欠いた窓の外は暗い。窓を開けてみるとやはり寒い。つまり深夜12時だ。

あまり現実がつかめないまま、読みかけのスコット・フィッツジェラルドの短編集の続きを再び開く。自分の翻訳の勉強のために買った村上春樹による翻訳版。開けた続きのページは、スコット・フィッツジェラルドの過ごした1935年についてだった。そこでは、記録されたスコット・フィッツジェラルドについての見聞を基に村上春樹が彼の1935年を語っていた。





大恐慌と共に、すべて順調に進んでいた人気作家としてのスコット・フィッツジェラルドの人生は下降していた。それまで人気作家としてほぼ毎作品を掲載していた商業誌からは不必要とされはじめ、気付いた頃にはヘミングウェイなどの新興作家にその座を奪われていたスコットは、アルコールに溺れていた。その中での描写。
療養のために宿泊していたサウスカロライナのホテルで彼は、ハード・ドリンク(ウィスキー、ワインなど)を一切絶ち、ビールのみを許し作家復帰を目指し奮起していた。その頃の彼はほとんど食事を摂らず、睡眠薬で短い睡眠をとりながら、一日多い時で32本のビールを飲みながら未完成の小説を書き続けていた。ベルボーイがビールを届けてもスコットは顔さえも上げず黙々と書き続け「一本だけビールの栓を開けといてくれ」と頼むだけで、顔をあげずただただひたすら書き続けていた。彼はやはり自分の才能を信じていたし、それに認められることが必要な天才だったのだ。

後に最期の作品となる『崩壊』3部作を出すスコットは、この1935年には何一つ作品を完成できなかった。32本のビールと共に一日中ひたすら書き続けた未完成の作品は一度も外に出ることはなかった。

その情景がとても儚くて思わずヘッドフォンを手に取ると、開けっ放しのiTunesからは友人であるKeiichi Nanba君の音楽が鳴っていた。耳から脳へと届くアルペジオのループと共に一気にそれを一冊読み終えた。

そして、ある不動産関係の知人から先日頂いたフロリダ産オレンジを取りにキッチンまで行き包丁を入れると、一気に食べきってやった。太陽の光をたっぷり含んだ。確かにそのオレンジはそんな味がしたような気さえした。

外はまだ暗い。世界はまだ寝ている。今日だって相変わらずの怠け者だ。

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